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福岡高等裁判所 昭和26年(う)3470号 判決 1952年1月31日

控訴人 被告人 古川知幸

弁護人 岩橋朝一

検察官 納富恒憲関与

主文

原判決を破棄する。

本件を原裁判所に差し戻す。

理由

弁護人岩橋朝一の弁論要旨はその趣意書記載の事実と同一であるからここに引用する。

本件控訴趣意は量刑不当を主張しているがそのうちに親族間の告訴の問題にふれている点があるからこれについて調べてみる。

記録中の被告人の供述記載によると、被告人と本件被害者である廉隅龍馬とは、各々の父が従兄弟関係にあるようである。そうだとすると被告人の本件背任業務上横領被告事件については、右廉隅の告訴を訴訟条件とするところ、記録を精査してもその有効な告訴のあつた事実は認め難いようである。尤も司法巡査井崎鉄次郎作成の右廉隅の供述調書にはその告訴の趣旨ではないかとも解される供述記載があるが、同巡査が当時刑事訴訟法上の司法警察員の資格をもつていたかは記録によると甚だ疑わしいところである。(電話聴取書参照)。なおまた右廉隅の検察官に対する供述調書には明らかに告訴の趣旨の供述記載があるが、その時すでに遅く、右廉隅が所謂犯人を知つた日から六ケ月の告訴期間を経過しているようである。即ち原審としては被告人と廉隅との間に法律上の親族関係ありや、ありとすれば告訴が有効になされているや否やを明らかにすべきであつたに拘らず、その挙に出でずしてたやすく被告人に有罪の判決をしているのは訴訟手続に法令の違背があるというべくその違背は明らかに原判決に影響を及ぼすものであるから、原判決はこの点において破棄を免れぬ。而して本件は当裁判所において自判するに適しないので、量刑不当の点に対する控訴趣意については判断を省略し、原裁判所に差し戻す。

仍て刑事訴訟法第四百条本文第三百九十七条によつて主文の通り判決する。

(裁判長判事 後藤師郎 判事 川井立夫 判事 大曲壮次郎)

弁護人の控訴趣意

第一点原判決は刑の量定が不当である。

一、原判決の要旨は被告人が其雇主たる廉隅龍馬より其商品たる陶器類の出張販売及び其売掛代金の集金を命ぜられ其代金の受領を為したるに拘らず擅に之を着服横領し又は遊興飲食費等に相殺し雇主に対し損害を与えたる事実を認め背任及業務上横領罪として被告に対し懲役一年の刑を言渡たるも右一年の実刑は左の理由に因り苛酷に失する。

い、被告人と雇主たる廉隅龍馬とは再従兄弟の間柄にて雇主廉隅も親戚関係上被告を信用して商品代金の集金を為さしめ二十六年九月二十五日検察官に対する廉隅の供述に依るも出張を為さしめたるは二十五年九月七日以降出張四回に亘り其中三回は回収の上無事に夫々精算を為しあり第四回目に当り今回の失敗を為したるものにて当初より計畫的の悪意等に非ざる事を認むるに難からず

ろ、本件は親戚間の犯罪にして前記廉隅の供述中にも正式に告訴状を提出したるに非ずして只単に処罰要求の意味なりしと供述しあり。

は、又被害金額に付ても一部の弁済を受け尚廉隅供述中今後可成早く確実な方法に依り完済に努めるから御寛大に願います等の供述ありて被告の処罰を絶対的に希望すると云う意味に非ざる事を窺知し得る点あり。

に、被害弁償の点は本件記録添付の五万円及び四千三百円並に七千四百九十円の領収書ありて其の点は明確に認めらるる。

ほ、被害残額に付ても被告人及被告人の父たる古川松蔵も極力之が実現に努力しある事実あり。

へ、本件に関し被害者の母及叔母も歎願書を提出して親戚の関係上被告人に寛大の処分を願出居る事実あり。

と、被告人は犯罪後改悛の情顕著なるものあり。

二、以上掲記の各事情を綜合検討するときは本件の実刑一年は刑の量定其当を得ず苛酷に失するの虞あるを以て極めて適正の判決あらん事を希望する次第であります。

三、右前記の本年九月二十五日検察官の取調に係る廉隅の陳述調書、被害弁償に係る領収書及被害者の母及叔母の歎願書を援用する。

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